介護士が利用者、家族から裁判で訴えられる可能性はあるの?

介護現場のおはなし

こんにちは。介護福祉士のケイです。

先日うちの職場で同僚と「介護士が利用者から裁判で訴えられることってあるのかな?」と話題になりました。

このブログでも何回か記事にしているとおり、利用者や家族から訴訟を起こされるというケースはあります。

その中でも最も多いのが転倒転落がおこってしまった場合における裁判です。

この記事では転倒転落がおきてしまい、裁判にまで発展してしまったケースを紹介しようと思います。

ホントに裁判までになるの?どういったケース?

ネットでいろいろと介護に関する裁判を調べてみました。

裁判にまで発展するケースとして、介護サービスを提供する過程で、関係者(介護サービス利用者、介護事業者、またはその従業員)の物、身体または生命が傷ついたり失われるような出来事が生じたとき、主に、介護サービス利用者から、介護サービスを提供する事業者に対し、その損害の賠償を請求する形で訴訟提起される傾向にあるようです。

利用者の所有物や財産(衣類など)が損傷したり失われたときも、「介護事故」にあたりますが、介護士が誤って利用者の物や財産を損壊してしまったときに、訴訟になることはほとんどないようです。

また、利用者が施設内の設備を壊してしまったときなど、事業者の従業員の身体、生命、財産が損壊・損傷したときも同様に、訴訟に発展することはあまり多くありません。

裁判にまで発展するのは、利用者が転倒するなどして、介護サービス利用者の身体が大きく傷ついたり、重篤な症状が発生したり、他界してしまうなど、利用者の身体・生命に重大な影響が出てしまったケースが圧倒的に多いです。


いろいろな裁判のケースがありますが、利用者が怪我をしたり他界をしたからといって、全てが訴訟になるわけではありません。

訴訟前に話し合いをして解決をすることも多いようです。

訴訟になるケースは、介護サービス利用者と介護事業者との間で、介護事業者が利用者に賠償をすべき範囲や額について争いになる場合のみといえます。

どのようなことが争いになるかというと、、、
①どんな事故が発生したのか
②事故が起きたとして介護事業者が責任を負う必要があるのか
③事故と結果(怪我や死亡)との因果関係はあるのか
④介護事業者が負担する金額はいくらか
という点が争点になるようです。

その点について話合いで解決が出来なかったときに、利用者側が最後の手段として裁判をおこすことになります。


介護事故に関する訴訟の件数について、裁判所や行政機関が具体的な統計をとっているわけではありませんが、一般に、介護事故に関する訴訟は概ね増加傾向にあると言われています。

介護事故訴訟が増加をしている原因としては、介護サービスが普及していることや、介護士の人材不足や介護事業者の経営が悪化し、サービスの低下がみられること、などが挙げられるといえます。

どこの介護現場でも人手不足なので、運営にも余裕がないのが現状であるといえます。そういう中で介護事故がおきてしまいます。

介護事故訴訟で圧倒的に多いのは、転倒事故です。具体的には、歩行時の転倒、ベットから車椅子へ移る際に落下する事故です。

特に、転倒により骨折したり、脱臼するケースでは、重大な損害が発生したといえるため、訴訟に発展する件数が多いといえます。

ほかにも、誤嚥や誤飲、介助中の怪我、薬の誤配等も訴訟になることがあります。特に誤嚥により食物をのどに詰まらせて窒息死したというようなケースでは、訴訟になることが多いです。

裁判の結果、介護事業所に責任があるとされた裁判例

転倒事故に関して、介護事業者側の責任を認めた裁判例は多数有ります。

今回は大阪高裁平成19年3月6日判決と福岡地裁小倉支部平成26年10月10日判決を紹介します。

大阪高裁平成19年3月6日判決の事件は、利用者が痴ほう対応型共同生活介護施設において転倒・骨折し、その結果、転倒事故から約2年後に死亡した事案です。

裁判所は、普段と異なる不安定な歩行の危険性があり、それが現実化して転倒に結び付いたものであり、職員としては、利用者のもとを離れるについて、せめて、利用者が着座したまま落ち着いて待機指示を守れるか否か等の見通しだけは事前に確認しなくてはならないのに、これを怠ったものであったと認定し、施設側の責任を認めました。

つまり、職員としては、利用者が普段と異なる不安定な歩行をする可能性があったことを認識できた筈であるから、しかるべき対処をするべきだったのにこれを怠ったものと判断したのです。

福岡地裁小倉支部平成26年10月10日判決は、96歳だった利用者が、被告経営の特別養護老人ホームの短期入所生活介護事業サービスを利用中、転倒して傷害を負い、その後死亡したという事案です。

裁判所は、①利用者の足腰がかなり弱っていたこと、②訪問看護記録には、歩行状態の不安を指摘する記載があること、③訪問看護計画書にも、「・・・・転倒する可能性が高い」との記載があること、④被告施設も利用者に対して歩行介助を提案していたことなどから、利用者は基本的に歩行中いつ転倒してもおかしくない状態であったというべきであり、被告が本件事故を予見することが可能であったとしました。

その上で、被告(施設側)は、利用者が歩行する際、可能な範囲内において、歩行介助や近接した位置からの見守り等、転倒による事故を防止するための適切な措置を講じる義務があったのに、これを怠ったとして、施設側の責任を認めました。

つまり、裁判所としては、職員としては利用者が転倒する可能性があったことを認識していた筈であるから、事故防止のための措置をするべきだったのにこれを怠ったものと判断したのです。

裁判の結果、介護事業所に責任が無いとされた裁判例

転倒事故に関して、介護事業者側の責任を否定した裁判例も多数存在しますが、東京地裁平成24年11月13日判決と東京地裁平成27年3月10日判決を紹介します。

東京地裁平成24年11月13日判決は、当時71歳の利用者が、被告会社の設置、運営するデイケア施設を利用していた際、転倒事故により傷害を負ったとして、利用者の相続人である原告が損害賠償を求めた事案です。

裁判所は、
①アセスメント表(利用者の状態や希望などの情報収集した結果をまとめた表)には、寝返り、起き上がり、移乗、歩行についての評価は「自立」であり、歩行、立位、座位でのバランスは「安定」の評価との記載があったこと
②利用者、本件施設の見学や利用の際にも一人で歩行しており、その際転倒したことはないこと
③日常的に通院していた病院の診療録をみても、利用者は、最後に入院していた時も転倒・転落歴や歩行時のふらつきもなかったことから、歩行能力において特に問題はなく、階段の昇降を含め、歩行時に介助を必要とする状況にはなかった
と認定しました。

裁判所は、施設側が利用者が転倒することを予見するのは不可能だったと認定しました。

東京地裁平成27年3月10日判決は、利用者がデイサービスの帰りに自宅の玄関内で靴を脱ごうとしたところ、転倒したという事故です。

利用者が自分を靴箱の横に置いてあった椅子に座らせて靴を脱がせるべきであったのにこれを怠ったと主張しました。

これに対し、裁判所は、本件通所介護契約に基づき、原告が転倒しないよう十分な注意を払うといった抽象的な義務を負うが、原告が主張するような態様で介助する債務を負っているとは認められない上、被告の従業員が実際に行った介助につき明らかな不手際があったとまではいえず、むしろ、原告の行動に起因する突発的な事故であった可能性も残ることから、事業者側の責任を否定しました。

裁判で介護事業所側の責任になる場合と責任にならない場合のポイントは?

事業者側の責任を認めた裁判例(大阪高裁平成19年3月6日判決と福岡地裁小倉支部平成26年10月10日判決)と、責任を否定東京地裁平成24年11月13日判決を比較すれば明らかなとおり、施設やその職員が事故が発生する可能性があると予め認識できたかどうか、あるいは、実際に認識すべきであったかどうか、つまり、予見可能性と予見義務が問題となります。

また、東京地裁平成27年3月10日判決では、仮に介護職員などにおいて転倒しないように注意を払う義務があったとしても、それは抽象的な義務にすぎず、利用者が靴を脱ぐ際に椅子に座らせるまでの義務があったとまでは認められないとしました

さらに、事業者側の責任を認めた裁判例(大阪高裁平成19年3月6日判決と福岡地裁小倉支部平成26年10月10日判決)でも、明言こそされていませんが、職員が実際に適切な措置を講じることは可能であり、それを講じていれば、事故の発生を回避できたことが、事業者側の責任を認めることの理由だと考えているようです。

このように、結果を回避する可能性や、結果を回避する義務の有無も問題となります。ほとんどの事件で、裁判所は、事業者側が転倒などを予見できるのであれば、これを予見すべき義務があり、予見する義務があれば結果を回避するための措置を講じる義務があると認定して、事業者側の過失を認める傾向にあります。

もっとも、予見することが出来たとしても、その可能性が少ないといえる時には、抽象的な結果回避義務しか無かったものとして、例外的に事業者側の責任を否定することもあります。

最も重要なのは、事業者側が転倒などを予見できたかどうか、予見できたとしてどの程度予見できたのか、という点といえます。

引用参考:介護弁護士.com

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