2040年までに「介護崩壊」がおきる。根本的原因はどこにあるのか考えてみた。

介護現場のおはなし

こんにちは。介護福祉士のケイです。
介護事業所の倒産が止まりません。その根本的な原因はどこにあるのか?考えてみました。

立て続けに発生している高水準の賃上げが、介護職員の人手不足をさらに加速させています。
物価の高騰も影響しており、2024年の1月から4月の間に「介護事業者(老人福祉・介護事業)」の倒産件数は51件に達し、前年同期比で45.7%増となり、過去最多を記録しました。

また、介護報酬がわずかなプラス改定にとどまった「通所・短期入所」の倒産件数は19件(同58.3%増)となり、すでに上半期(1-6月)の最多記録である18件を上回っています。
介護報酬がマイナス改定となった「訪問介護」も22件に達し、利用者に身近な介護業の倒産が目立ちます。

介護事業者は、人手不足に加え、コロナ禍での利用控えや感染防止対策などによりコストが増加し、倒産が急増しました。
その後、コロナ関連の資金繰り支援の効果で倒産は抑制されましたが、支援の縮小に加え物価高、人手不足が重なり、経営環境はますます厳しくなっています。

2024年の介護報酬改定はプラス1.59%で、介護職員の待遇は2024年度のベースアップが2.5%と改善されました。
しかし、厚生労働省によると2024年3月の「介護サービス職業従事者(常用、パート含む)」の有効求人倍率は3.70倍(全職業平均は1.17倍)に達しています。
他の産業では5%を超える賃上げが相次いでおり、賃金格差の広がりが止まらず、採用の難航や離職が深刻化し、倒産増加にもつながっています。

1月から4月の介護事業者の倒産51件のうち、デイサービスやショートステイなどの「通所・短期入所介護」が19件(前年同期比58.3%増)、「訪問介護」が22件(同22.2%増)と、この2業種で全体の8割(構成比80.3%)を占めています。
人手不足だけでなく、光熱費やガソリン代などのコスト増も資金繰りを圧迫しています。

このペースで推移すると、2024年上半期(1-6月)の介護事業者の倒産件数は、これまで最多だった2020年の58件を上回ることはほぼ確実です。
すでに最多となった通所・短期入所介護に加え、訪問介護も最多記録を更新する勢いで、介護業界は急速に淘汰が進んでいます。

2024年1月から4月の介護事業者の倒産は過去最多

急速に進行する少子高齢化の波の中、インフレの進行と人手不足の影響により、介護事業者の倒産が相次いでいます。
東京商工リサーチの「2024年1-4月『老人福祉・介護事業』の倒産調査」によると、2024年1月から4月の介護事業者の倒産数は、同期間としては過去最多を記録しました。
経営を続けている事業者でも離職者が増加しており、慢性的な採用難に直面しています。

従来であれば、従業員は「その施設」を辞めても業界を離れることは少なく、しばらくすると別の施設に再就職することが一般的でした。
介護業界は、バブル崩壊後の不況期である「就職氷河期」においても、求人倍率が常に高い水準を保っていました。言い換えれば、この業界は「デフレの申し子」のような存在でした。

しかし、介護業界は介護報酬によって事業者や従業員の収入がほぼ決まってしまうため、インフレには弱いという特性があります。
現在のように他業界で賃金が上昇している中でも、介護業界は物価に合わせて給与を上げることが難しいのです。
サービスの質に関わらず、事業者が受け取る報酬はあらかじめ決まっているため、創意工夫で生産性を高める余地が小さいからです。

より良い賃金の業界への人材流出

「失われた30年」と呼ばれるデフレと人余りの景気低迷を耐え忍ぶために、「とりあえず手に職を」と養成校に通い、介護・福祉系の業界に入った人々は少なくありませんでした。
しかし、インフレと人手不足の時代に入り、次々と離職しています。
今回は「その施設」を辞めて次の施設に移るのではなく、より良い待遇や賃金を求めて「業界そのもの」から離れ、二度と戻るつもりはないのです。

加速する高齢化、インフレ、人手不足によって、介護需要に対して人的リソースの供給が追いつかない「介護崩壊」が現実味を帯び始めています。
求人倍率は急激に上昇しており、たとえばヘルパー職では2022年度の求人倍率がすでに10を超えています(朝日新聞デジタル「求人倍率15倍、『介護崩壊』の懸念に現実味 ヘルパーの高年齢化も」2023年12月4日)。
これは空前の売り手市場とも言えますが、実際には「誰もやりたがらない仕事」になっていると言う方が適切です。

諸悪の権現!!マンパワーを基準とした制度設計

不況期には、介護職や医療・リハビリ職が労働市場で余剰人材の受け皿として一定の役割を果たしました。これは良し悪しの両面があったと思います。
強烈な就職氷河期において、介護や福祉の仕事のおかげで生計を立てられた人もいました。

しかし、「介護崩壊」が現実味を帯びてきた最大の原因は、平成デフレ不況期という特殊な経済状況下で吸収できたマンパワーの規模を基準にして、日本社会の「高齢者福祉」の基本的な制度設計を行ってしまったことです。
つまり、今後もその人員が維持されることを前提にしてしまったのです。ここに諸悪の権現があると私は考えます。

この楽観的すぎる制度設計は、突如としてやってきたインフレと人手不足により、急速に崩壊して成り立たなくなってしまいました。
経済学的には「好況期には、人材はより良い待遇を求めて移動する」という初歩的な現象にすぎないのですが、「失われた30年」という期間は、そのような当然の事実を忘れさせるには十分だったようです。

このまま行けば2040年までに「介護崩壊」が起きる

2040年頃の要介護者のニーズを満たすためには、現在より約60万人の介護人材の増員が必要と推計されています(日本経済新聞「介護職員、40年度までに57万人の増員必要 厚労省推計」2024年7月12日)。
この推計がいかに現実的でないかは、2040年頃に新卒として送り出される18~22歳の人材が約60万人であることからも明らかです。
仮に全員を介護職にしなければならないほどの深刻な状況を解消することは不可能です。

介護職員の高齢化はすでに深刻で、若い人材の採用が急務となっていますが、今後「若い労働力」をあらゆる業界が奪い合う構図がさらに激化するでしょう。
少子化と高齢化が加速し、物価高と円安が進行する中では、介護業界の魅力はさらに低下します。介護報酬を多少改善しても、他業種との人材競争に勝つことは難しく、根本的な人的リソースの供給不足を改善することはできないでしょう。

現状のままでは、「介護崩壊」は2040年までに確実に起こります。
特に若者人口の少ない地域から順に発生するでしょう。しかし、解決策が全くないわけではありません。

介護職員も「徴兵制」導入?

最近、SNSで役所が社会福祉協議会と連携し、高齢者のゴミ出しを近隣の中学生に「ボランティア」として依頼する事例が紹介され、批判が殺到しました。
「ただ働きさせるな」「実質的な強制労働だ」との非難がありました(参考:J-CASTニュース「『中学生に働かせるな』ゴミ出しボランティアに異論 高齢者宅向けで募集、募集団体に意義を聞いた」2024年7月11日)。

しかし、これは単なる「自治体の失敗」ではなく、他に解決の糸口が見つからない地域が今後増えていくことを示唆しています。つまり、介護職員の「徴兵制」が解決策となり得るのです。

例えば、若年層に対し、特別な事情がない限り、一定期間介護やそれを補佐する地域活動への参加を「ボランティア」として義務付けることができれば、2040年代の超高齢社会でも、介護・福祉リソースの決定的な破綻を回避することが可能となるでしょう。

「学校活動の一環にする」のは難しくない

現在は、介護業界から離れようとしている人材に対して、様々な方法で留まってもらうように働きかけている段階です。
しかし、それでは根本的な解決ができないと政府が気づけば、より強制力を持った形で高齢者の「QOL(生活の質)」(もっと大げさに言えば生存権)を守るための施策を講じる可能性は十分にあります。

名目上「ボランティア」であれば、経済生産性や事業採算性といった観点を気にする必要はありません。初期コストも非常に低いです。行政が社会福祉協議会と連携して地元の中学校や高校に働きかけ、学校活動の一環にすることはそれほど難しいことではありません。

皆さんも中高生の頃に経験があるかもしれませんが、地域のごみ捨てや河川の清掃などが「ボランティア」という名目で学校行事に組み込まれ、実質的に強制参加となっている学校はすでに数多く存在しています。

苦しい話だが、何かしら手を打たないといけないのが現実

「いやいや、さすがに『徴兵制』なんて、いくら政府でもそこまで踏み込むことはありえないだろう」という意見があるかもしれませんが、私は全く「ありえる」と考えています。

というよりも、「ありえる」かどうかを議論する以前の問題です。
財政的・人員的逼迫状況はますます深刻化し、2040~2050年ごろには認知症高齢者がいよいよ1000万人に到達することが予想されています。
ますます少なくなる人員で、ますます多くなるニーズをこれまで通りの水準で満たそうとすれば、働く人の環境や待遇はさらに悪化していきます。何かしら手を打たなければならないのです。

提供できるサービスの水準を引き下げたり、利用者負担の大幅な増加を行う政治的決断がなされないまま現状維持を選択すれば、確実に崩壊は避けられません。

政府が痛みを伴う決断による政治的リスクを恐れて問題を放置し、全国各地の努力で介護リソースを工面させようとすれば、望むと望まざるとにかかわらず、直接・間接を問わずなんらかの強制力を伴う介護職員の「徴兵制」を導入せざるを得なくなるでしょう。

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